大阪に行ったことがある人なら、きっと聞いたことがあるでしょう。「今夜はキタで飲もう」「この服、ミナミの百貨店で買ったのよ」などという会話です。キタとは梅田周辺、ミナミとは難波周辺を指す言葉で、関西人だけでなく全国的にも有名な繁華街の呼び名です。では、なぜキタやミナミと呼ばれるようになったのでしょうか。ヒガシやニシという言葉はなぜないのでしょうか。この記事では、大阪の歴史や文化に詳しい専門家の見解をもとに、その謎に迫ります。
キタとミナミは江戸時代につくられた
キタとミナミの名前の由来を探るには、江戸時代にさかのぼる必要があります。当時の大阪は、現在の中央区にあたる船場が商業の中心地でした。船場は、大川や堂島川などの水路に沿って、米や酒などの物資を運ぶ船が多く集まる場所でした。船場には、商人や職人、庶民などが住み、商店や住居が密集していました。船場は、大阪のミナミとは別のエリアであり、現在でも船場と呼ばれることがあります。
一方、現在のキタやミナミは、江戸幕府がまちづくりのために人為的につくった地域でした。ミナミの発祥は、芝居小屋が幕府の許可を得て道頓堀に置かれたことが始まりです。道頓堀は、大川の一部を干拓してつくられた運河で、芝居小屋のほかにも、茶屋や料亭、遊女屋などが軒を連ねました。芝居小屋は、歌舞伎や人形浄瑠璃などの演劇を上演し、多くの客で賑わいました。客は、芝居の前後に、周辺の飲食店や遊興施設で楽しみました。こうして、道頓堀を中心とした繁華街が形成され、南の新地や南地五花街と呼ばれるようになりました。これが、ミナミの起源です。
一方、キタは、商人が接待に利用する町として栄えました。キタの発祥は、中之島にあった蔵屋敷と呼ばれる米の貯蔵庫です。蔵屋敷では、米の取引が行われ、商人たちが集まりました。商人たちは、取引の後に、接待に使う町が欲しいと考えました。そこで、蔵屋敷の北側にあった森や畑の土地を開発して、茶屋や料亭、遊女屋などを建てました。これが、北の新地と呼ばれるようになった町です。北の新地は、上流階級の商人や武士などが利用する高級な町でした。こうして、中之島を中心とした繁華街が形成され、キタの起源となりました。
ヒガシやニシはなぜないのか
キタやミナミは、江戸時代につくられた繁華街の名前が、そのまま方角を表す言葉として定着したと考えられます。では、ヒガシやニシという言葉はなぜないのでしょうか。これには、大阪の地理的な条件が関係しています。船場を起点にすると、東は大阪城や大阪府庁などの官公庁や歴史的な建造物が多く、西は大阪湾やベイエリアなどの水辺が広がっています。これらのエリアは、繁華街としての特徴が弱く、キタやミナミほどの集客力や知名度がありませんでした。そのため、ヒガシやニシという呼び名は、一般に定着しなかったと考えられます。
もちろん、ヒガシやニシという言葉が全く使われないわけではありません。例えば、京橋や天満橋などのエリアは、ヒガシと呼ばれることがあります。これは、京阪電気鉄道が1990年に発行した社史に「キタの中心が梅田、ミナミの中心が難波なら、ヒガシの中心は京橋だ」と書いたことが影響しています。京橋は、国際花と緑の博覧会や大阪ビジネスパークなどの開発によって、ビジネスや観光の拠点となりました。しかし、ヒガシという呼び名は、京橋周辺のエリアに限定されており、広く浸透しているとは言えません。
また、阿波座や弁天町などのエリアは、ニシと呼ばれることがあります。これは、2009年に西区の自営業者らが「大阪ニシ.com」というポータルサイトを立ち上げたことが影響しています。ニシは、西区や港区だけでなく、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンや埋め立て地などのベイエリアまで含む場合もあります。しかし、ニシという呼び名は、まちづくりが発展途上であることや、エリアの範囲が曖昧であることなどから、一般に定着しているとは言えません。
まとめ
大阪の繁華街「キタ」と「ミナミ」の名前の由来は、江戸時代につくられた繁華街の名前が、そのまま方角を表す言葉として定着したということでした。ヒガシやニシという言葉は、繁華街としての特徴が弱く、キタやミナミほどの集客力や知名度がありませんでした。そのため、ヒガシやニシという呼び名は、一般に定着しなかったと考えられます。
この記事では、大阪の繁華街「キタ」と「ミナミ」の名前の由来について、歴史や文化の観点から紹介しました。キタやミナミは、江戸時代に人為的につくられた繁華街であり、その名前が方角を表す言葉として定着したということでした。ヒガシやニシという言葉は、繁華街としての特徴が弱く、広く浸透していないということでした。大阪は、キタやミナミだけでなく、船場や京橋など、多様なエリアが存在する魅力的なまちです。ぜひ、大阪の歴史や文化に触れてみてください。それでは、最後に、大阪の繁華街の風景を描いてみました。ご覧ください。