ノーベル賞を受賞する科学者と聞くと、どんな人物が話題になりますか？
日本国内で研究に励み、名門大学を卒業したエリート…。しかし、江崎玲於奈はそのイメージとはかけ離れた異端児でした。
『日本にはノーベル賞は取れない』と語り、研究環境を求めて渡米。そして、彼が発見した『江崎ダイオード』は、半導体技術の常識を覆しました。
本日は、そんな破天荒な天才科学者・江崎玲於奈の人生を紐解いていきます。
常識にとらわれない天才の誕生
幼少期と家庭環境
1925年3月12日、大阪府に生まれた江崎玲於奈。父・正一は大蔵省の奔走、母は教育熱心で、裕福な家庭でした。
幼少期の玲於奈は好奇心旺盛な盛な少年で、周囲のものを分解して仕組みを探すのが大好きでした。
特にラジオや機械には興味を持ち、いつか科学者になりたいと夢見ていました。
でも、この頃から彼は『あるコンプレックス』を恐れることになります。
学歴コンプレックスと成長
戦中、日本の最高学府といえば東京帝国大学。江崎もそこを目指しましたが、結果は不合格でした。
第二移動の九州帝国大学へ進学することになります。
当時の日本社会では、学歴がすべてと言われていました。
彼自身、『東京大学に入らなかった』という事実に強い劣等感を抱きました。
しかし、この複雑こそが彼の原動力になります。
『学歴ではなく、成果で勝負するしかない』と考え、物理学研究に没頭するようになったのです。
大学時代と研究者への道
九州帝国大学で物理学を学んだ江崎は、戦後の紛争期にも研究を続け、卒業後は意外にも『ソニー』に就職します。
当時のソニーはまだ中小企業だったけど、自由な発想を尊重する風土があり、彼はこの環境に魅了されました。
ここから、後にノーベル賞を受賞する『江崎マラソン』が誕生することになるのです。
「江崎勝手」誕生の向こう
ソニーでの挑戦
1950年代、世界中の科学者が半導体技術の発展に向けて考えました。江崎もその最前線に立って、新しい電子デバイスの開発に挑戦します。
そんな中、1957年、彼は偶然にも『負け性抵抗』を示すものを発見。これが後に『江崎マラソン』と呼ばれるものになります。
この発見は、世界の物理学者を驚かせました。
ノーベル賞への道
しかし、当時の日本では彼の研究は正当に評価されませんでした。それに、『このような現象はありえない』と疑われたのです。
それでも彼は諦めず、研究を続けました。
そして1973年、ついにノーベル物理学賞を受賞！この受賞により、彼の発見が世界的に認められることとなったのです。
日本を守るアメリカへ
なぜ日本を離れたのか？
江崎玲於奈は、ノーベル賞を受賞する前から日本の研究環境に疑問を感じていました。
彼は『日本の研究機関では、自由な発想が認められない』と考え、より研究に専念できる場所を求めていました。そこで彼が選んだのは…アメリカ。
1960年、江崎はソニーを退社し、アメリカのIBMに移籍。ここで、さらに前向きな研究を進めていくことになります。
ノーベル賞受賞と世界的評価
アメリカに渡った江崎は、半導体の研究をさらに発展させ、ついに1973年、ノーベル物理学賞を受賞します。
しかし、日本での反応は意外にも冷ややかでした。
『なぜ日本人なのに、日本で研究しなかったのか？』
『海外に行った裏切り者ではないか？』
江崎はそんな風潮に対して、こう言い放ちます。
『日本にいるは、ノーベル賞は取れない』
この発言は、日本の研究環境に一石を投じました。
自由な発想を阻止する縦社会、年功序列の評価制度…。
江崎は、日本の科学界に警鐘を鳴らしました。
「ノーベル賞は日本では取れない」 発言の真意
江崎の言葉は全く批判ではありませんでした。彼は、日本の研究環境をより良いものにするために、
若い研究者の自由な発想を尊重すべきだと主張していたのです。
その思いを形にするために、彼は後に筑波大学の学長を務め、若手研究者の支援に尽力しました。
しかし、日本の学界はなかなか変わりませんでした…。
それでも、彼の功績は確実に次世代に影響を与えていきます。
晩年とその後への影響
学術界での功績と教育への情熱
ノーベル賞受賞後、江崎はアメリカを拠点にしながらも、日本の科学教育の改革に取り組みました。
筑波大学の学長に就任し、教育制度の改革に挑戦。
特に、若手研究者が自由に研究できる環境づくりに力を注ぎました。
しかし、日本の学界は最大限変化に不足しており、彼の理想を完全に実現することはできませんでした。
日本の科学界に残ったメッセージ
江崎は晩年、『日本の研究者たちはもっと挑戦すべきだ』と語り続けました。
『世界に通用する研究をするには、まずは自由な発想が必要だ。でも、日本ではまだそれが難しい。』
彼は日本の研究者に向けて、常にこう続けたのです。
江崎玲於奈の遺したもの
2018年、江崎玲於奈は93歳でその生涯を閉じました。
しかし、彼の功績は今も生き続けています。
彼の発見した『江崎マラソン』は、今日の半導体技術の発展に大きな影響を与えています。
スマートフォン、コンピューター、自動車…。
彼の発明がなければ、今の私たちの生活は大きく変わっていたかもしれない。
破天荒な天才の生涯
エリート街道を歩めなかった少年は、自らの努力で世界を驚かせる科学者になりました。
そして、日本の研究環境に限界を感じ、アメリカへと渡った江崎玲於奈。
彼の『異端児』としての生き方は、今なお多くの研究者に影響を与えています。
ノーベル賞受賞者でありながら、日本の研究界に厳しい言葉を投げかけた江崎玲於奈。
でも、それは『未来の日本のため』のメッセージだったのです。
