2022年11月26日、中国南京市の南京伝媒学院で、白い紙を持って集まった学生たちが警察に取り囲まれるという衝撃的な動画がSNSに投稿されました1。これがきっかけとなって、中国各地で白い紙を掲げる抗議運動が始まりました。この運動は「白紙革命」や「白紙運動」と呼ばれ、中国共産党の厳しい「ゼロコロナ政策」と言論統制に対する市民の不満と怒りを表現するものでした。
白紙運動の背景には、中国政府が新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためにとった過酷な措置があります。中国では、一部の地域で感染者が発生すると、都市封鎖や強制隔離、集団検査などの厳格な対策が実施され、これらが市民の生活や経済に大きな影響を与えました。また、政府はコロナ関連の情報を厳しく統制し、批判的な声を封じ込めようとしました。
白紙運動の発端となったのは、2022年11月24日に新疆ウイグル自治区のウルムチ市で発生した高層住宅の火災でした。この火災で少なくとも10人が死亡し、多くの人が負傷しました2。火災の原因は不明でしたが、SNS上では、政府のゼロコロナ政策のせいで住民の救助が遅れたとして、当局の不手際を指摘する声が出ました。政府はこの火災に関する情報を削除し、メディアにも報道を禁じました。
しかし、火災の犠牲者を追悼し、ゼロコロナ政策に抗議する人々は、白い紙を手にして各地で集まりました。白い紙には何も書かれていませんでしたが、それは政府の言論統制を回避するためであり、同時に「白紙であれば、削除できない」という意味合いが込められていました。白紙運動は、1989年の天安門事件以来最大の反政府デモと広く見なされました3。
白紙運動は、北京や上海などの大都市だけでなく、広州や重慶などの地方都市や、香港や台湾などの海外にも波及しました。また、日本や欧米などの国々でも、中国本土の抗議活動に連帯する動きがありました。白紙運動に参加した人々は、ゼロコロナ政策の終了と国の防疫措置の解除、憲法上および法律上の権利（表現の自由、集会の自由、人権の保護など）を実施すること、仕事と生産と通常の経済生活の再開、運動に参加して逮捕された人の釈放などを主な要求としました。一部の人々は、さらに習近平の再選を阻止し、習近平の個人独裁を終わらせること、修正主義路線を止めること、中国共産党の支配をやめさせ、民主化改革を行うことなどを拡張要求としました。
白紙運動に対して、中国政府は強硬な姿勢で臨みました。警察は、白い紙を持った人々を次々と拘束し、取り調べや拘留、起訴などの処分を下しました。また、SNSやメディアに投稿された白紙運動に関する情報や画像を削除し、インターネットの検閲を強化しました。さらに、白紙運動に参加した学生たちに対しては、帰省を促す措置をとり、抗議の拡大を防ごうとしました。
白紙運動から1年が経った今、中国では厳戒態勢が続いています。政府は、白紙運動の再燃を警戒し、市民の監視や言論統制を強化しています。しかし、市民の不満と怒りはなくなっていません。ゼロコロナ政策は、依然として市民の生活や経済に大きな影響を与えており、政府の情報操作や弾圧は、市民の信頼を失わせています。白紙運動は、中国の社会に深刻な亀裂を生み出しました。この亀裂は、今後も中国の安定と発展にとって大きな課題となるでしょう。
