「太陽の船」の復元への挑戦─ 吉村作治さんの情熱と技術の融合
エジプト・ギザのクフ王のピラミッドの南側には、約4500年前に造られたとされる大型の木造船が2隻埋められています。これらの船は「太陽の船」と呼ばれ、古代エジプト人が太陽神ラーと王様の乗り物として崇拝していました。しかし、長い年月の間に木材は虫に食われて朽ち、その姿を見ることができませんでした。
この古代の謎に挑戦しているのが、日本のエジプト考古学者で東日本国際大学総長の吉村作治さんです。吉村さんは、エジプト各地の遺跡の発掘や調査に携わる中で、太陽の船の発掘と復元に情熱を注ぎ、日本の技術や資金を駆使して、この難題に挑戦しています。
第1の太陽の船、発見から復元までに16年
最初に発見された「第1の太陽の船」は、1954年にクフ王のピラミッドの東側にある船坑から出土しました。エジプト考古局が2年かけて部材を取り出し、14年かけて復元され、1982年に一般公開されました。この巨大な船は、全長43.6メートル、幅5.9メートル、高さ13.6メートルというもので、約1200本の木材が使用されていました。木材の種類は、レバノン杉、アカシア、シュロなど多岐にわたり、外国との交易を示すものでもありました。
第2の太陽の船、日本の技術で発掘と復元を進める
吉村さんは、南側にもう一隻の太陽の船が埋まっている可能性を提唱しました。1987年に電磁波探査レーダーを使用して行った調査で、船坑の存在を示す波形が現れ、さらに木の堆積物のような反応も確認されました。しかし、政治情勢や資金難により、プロジェクトは長らく停滞していました。
2011年になり、船坑の石の取り外しが始まりました。吉村さんは、日本の技術者や科学者と協力し、虫に食われた木材の取り出しに挑戦しました。部材はポリウレタン樹脂で固められ、2013年からの作業で約900本が回収されました。
現在の挑戦─ 復元作業の進行
現在、吉村さんは、回収された部材の復元作業に取り組んでいます。これらの部材は、エジプトの大エジプト博物館に移送され、保存や修復が行われています。吉村さんは、部材の形や組み合わせ方を分析し、元の船の姿を再現するための研究を進めています。また、部材の種類や年代、木目や刻印などの特徴も調査しており、これによって古代エジプトの船造りの技術や文化、信仰について新たな知見が期待されています。
吉村作治さんの使命感
吉村さんは、太陽の船の発掘と復元を、日本とエジプトの友好の証と捉えています。彼は、太陽の船が古代エジプト人の知恵と技術の結晶であり、その船を復元することは、古代エジプト人の精神を復活させることだと考えています。彼は、その精神を現代の人々に伝えることが自らの役割だとし、エジプトの文化や歴史への深い愛着から生まれる情熱を注いでいます。
吉村作治さんは、太陽の船のプロジェクトを通じて、日本とエジプトの文化交流に貢献し、エジプトの人々から「太陽の船の父」と呼ばれるほどの尊敬を受けています。彼の挑戦は、古代の船の謎を解き明かし、その文明に新たな一石を投じることに繋がるかもしれません。2023年に開館予定の大エジプト博物館での展示を目指し、吉村さんの挑戦は今もなお続いています。