孫正義、大誤算で「ああ、胸が痛い」… 赤字「1兆円超え」のソフトバンクGは来年、どこへ向かうのか
ウィーワークの経営破綻により、ソフトバンクグループ(SBG)は大きな痛手を被ってしまった。孫正義会長兼社長が投じた1兆円以上の費用が水の泡となり、これが孫正義氏にとっての大誤算となった。新型コロナウイルス感染症によるオフィス需要の急激な減少が、ウィーワークの収益悪化の主な原因とされている。
ウィーワークは2010年にアダム・ニューマン氏によって設立され、急速に成長。企業価値は2019年には470億ドル(約6兆9000億円)に達し、オフィスを持たない中小企業や個人事業主からの支持を集めた。しかし、経営実態のずさんさや不透明な企業統治が露呈し、急速な成長は鈍化。2019年には経営難に陥り、予定されていた新規株式公開(IPO)は延期され、ニューマン氏は退任に追い込まれた。
孫正義氏はこれに手を差し伸べ、2019年以降、SBG主導のもとでウィーワークの経営再建を進めてきた。SBGは2017年から段階的に出資し、これまでに160億ドル(約2兆4000億円)以上を投資してきた。しかし、2020年以降の新型コロナの影響により、業績はさらに悪化。2021年には上場時の時価総額がピーク時の5分の1にまで落ち込んでしまった。
そして、2023年8月にはウィーワークが「経営継続について疑義が生じている」と表明。この時点で既に借金が資産を上回り、債務超過に陥っていた。経営破綻は避けられない状況となり、日本国内のウィーワークは通常通り事業を継続するとの発表があった。
ソフトバンクグループはこの大誤算からどのように立ち直り、来年以降どの方向に進むのか。孫正義氏の経営手腕が問われる時が迫っている。
「ああ、胸が痛い」
ウィーワークへの投資を決めた張本人の孫氏は、責任を厳しく問われている。2023年6月の定時株主総会でウィーワークの株価低迷について質問を受けた孫氏は、「ああ、胸が痛い。これは僕の責任です。ウィーワークに最初に訪問して惚れ込んでしまいました」と謝罪した。
孫氏は続けて、役員らから出資をやめるよう促されたにもかかわらず、「僕が突っ込んで多額のお金を注ぎ込んでしまいました。(ウィーワークの)価値や投資の規模について、僕がニューマン氏をあおった部分もある。私の人生の汚点です」と弁明した。
ウィーワークは社債の利払いを延滞するほど資金繰りに窮したため、11月に裁判所に破産を申請した。今後は債務圧縮に加え、不採算拠点の閉鎖などを通じて、経営再建を進める方針だが、先行きは厳しい。米国ではコロナ禍後も在宅勤務が浸透しているためだ。
在宅勤務を前提に、コロナ禍を経て郊外に多くの人が引っ越したため、「皆、今さらオフィスには出社したくない。出社を強制すれば従業員は辞めてしまう」(アナリスト)との指摘も多い。そうなると、ウィーワークのビジネスモデルはもはや復活できない可能性が高い。
同社の破綻は、米国の商業用不動産の苦境を示す象徴的な出来事でもある。近年、米国ではオフィスの空室が目立ち、オフィスビルの所有者がローンを返済できない事態が相次いでいる。債務不履行が頻発すれば、金融機関の経営を揺るがしかねず、やがて経済に深刻な影響をもたらす可能性がある。
加えてウィーワークの破綻は、SBGの今後の業績にも響く懸念がある。SBGの9月中間連結決算は、1兆4000億円の赤字となった。ウィーワーク関連に加え、投資先のスタートアップ企業の株価下落などが要因だ。
後藤芳光CFO(最高財務責任者)は決算会見で、「非常に残念に思いますし、会社としてはこの結果を真摯に受け止めて今後の投資活動に生かしていかなければいけない。投資の決定にわれわれとしてどういう過ちがあったのか、改善していく点はどういうところなのか考えていく大きな宿題をもらったと考えています」と述べた。 孫氏の経営責任について問われると、「CEO(最高経営責任者)としてすべての経営に責任を持つという考え方はもちろんある中で、彼も意思決定に入っていますが、これは組織として認識すべきテーマだと思います。SBG全体のさらなる価値向上のため今、新機軸を打ち出していくことを徹底的に取り組んでもらうことの方が、われわれのステークホルダーにとっては重要な考え方ではないかと理解しています」と応答した。
「次はAI」というが…
業績不振から抜け出せないSBGが、次に命運を懸けようとしているのが人工知能(AI)事業だ。
オープンAIが昨年に生成AIの「ChatGPT」をリリースしたことをきっかけに、世界的にAIの開発競争が進んでいる。SBG傘下の英半導体設計大手アームは今年9月にニューヨーク株式市場に上場を果たし、孫氏もアームを中核としてAIを強力に推進する考えを繰り返し説明している。
世界的に労働力が不足する中、AIは生産性向上のカギを握るツールとして期待が膨らんでいる。だだ、開発は過当競争気味になっている上、AIブームがいつまで続くかどうかも分からない。ウィーワークの今後や、投資戦略についてどのような展望を描いているのか。孫氏が公の場で発するメッセージに注目が集まる。